top of page
執筆者の写真トルン紀美子

国籍留保制度について

更新日:2023年6月13日

日本の国籍法では第12条で、外国で日本人の親から出生した子供は、他の国の国籍を併せ持つ場合(もう片方の親からの国籍継承や出生地主義の国籍を取得できるなど)には、出生から3か月以内に出生届(出生届用紙の中に国籍留保のための署名の欄がある)を出さなければ、出生にさかのぼって日本国籍を喪失するという規定があります。


この条項によって日本国籍を取得できなかった子は、たとえ正式に婚姻している両親のもとにその嫡出子として生まれても、その存在は日本の戸籍に全く記載されません。国際結婚で外国籍の配偶者については婚姻の相手として記載されるし、外国籍を取得した元日本人が国籍喪失届を提出したあとも除籍として元日本人であったことの記録は残されています。それなのに出生の時から日本国籍がない子供の存在は夫婦の子供としての記録が一切ありません。例えば長男、長女の際に留保届が出せず、そのあとの子供は届を出した場合、その子の記載が「二男、二女」となるのでその記載により日本国籍のない長子がいることが推定できますが、一人っ子や末っ子などで留保届が出せなかった場合は、その存在が戸籍の記載からは全く憶測できません。そのために遺産相続の際にあとになってその存在が分かったため相続手続きのやり直しになった事例などもあるほどだそうです。


日本の家族制度は戸籍制度によってきちんと管理されているといわれていますが、この国籍法の国籍留保届の期限があまりにも短いため、提出を逸する例は後を絶たず、夫婦の嫡出子が戸籍に記載されていないというとてもおかしな運用になっています。このように、在外日本公館への距離が遠い在外邦人にとって3か月という期限はとても厳しいものですが、この規定がいかに厳格に運用されているかを、コロナ禍の始めに在外邦人にとっては大変危惧する必要がありました。その際(2020年6月)に会員用に限定記事として掲載したものを、この度ホームページの一般公開のほうに転載して公開することにいたします。(2022年11月追筆)


 

国籍留保届とコロナ対策移動制限との関連(2020年6月作成)

この冬の新型コロナ感染拡大に対応するため、世界中でこれまでにない移動の規制や渡航禁止の措置がとられました。各国でいろいろと対応が異なる中、特に感染者数や死亡者数が急激に増えた国では、通勤にも外出するにもそれなりの許可証を所持しなければならない、外出の範囲は自宅からたった1㎞になる、など厳しい規制を設けた国もありました。

この規制下で、海外に住む日本人が出産した場合「出生後3か月以内に提出」と決められている日本への出生届とそれに付随している国籍留保届を期限内に出せなくなり、生まれた子どもの日本国籍を喪失するケースが増えるのではないかと憂慮されました。

下記のご報告は、2020年4月上旬ごろこの問題をネット上で調べ、その後ドイツ国内での二つの領事館とやり取りをして得た結果を記録したものです。

/////////////////////////////////////////////////


日本の国籍法では、 --------------------------------- 国籍法 第十二条 出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは、戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ、その出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う。 --------------------------------- という条項があり、「戸籍法の定めるところにより」とは --------------------------------- 戸籍法

第百四条 国籍法第十二条に規定する国籍の留保の意思の表示は、出生の届出をすることができる者(第五十二条第三項の規定によつて届出をすべき者を除く。)が、出生の日から三箇月以内に、日本の国籍を留保する旨を届け出ることによつて、これをしなければならない。

○2 前項の届出は、出生の届出とともにこれをしなければならない。

○3 天災その他第一項に規定する者の責めに帰することができない事由によつて同項の期間内に届出をすることができないときは、その期間は、届出をすることができるに至つた時から十四日とする。

--------------------------------- の規定のことを指します。 わかりやすくいうと、日本国外で、片方が外国人の両親、もしくは両親が日本人でも出生地主義の国籍法の国で生まれ、日本以外の国籍も持つことになる子供が生まれた場合、3か月以内に、在外公館、または日本の戸籍のある役所に出生届と共に日本国籍の留保届を提出しなければ、出生の時にさかのぼって、その日本国籍を失ってしまう、というものです。(在外公館にある出生届には、その一枚の用紙の中に、国籍留保届のチェック欄があるので、出生届と同時に留保届も提出することになります。この記事の最後尾のリンクをご参照ください。) 以前は、法務省や在外公館のホームページに、この3か月以内という期限についてのお知らせがほとんど記載されていなかったので、この規定を知らず、3か月を過ぎてしまって日本国籍を取れなかった例の報告が多くありました。 最近では、ほとんどの国の日本在外公館のHPで、領事関連の戸籍関係の提出資料の中に、この規定のお知らせがあり、中には赤字で重要事項として記載されているところもあるようです。(例: https://www.us.emb-japan.go.jp/itpr_ja/shussei-todoke.html


出産後の3か月というのは、お産の経過が順調でない場合など、あっという間に過ぎてしまいます。できれば出産前に、このような出生届の出し方や必要書類の用意などをして準備しておくことが大切です。 また、通常、在外公館は自宅からかなり離れたところにあることが多く、国によっては往復に一日以上かかったり、飛行機の距離だったりするところもあり、母親が日本人の場合、出生届のためにわざわざ大使館や領事館に直接出向くことが難しい(近親者が提出することもできますがその場合は委任状が必要です。)という例は多くありますが、ここで重要なことは、そのようなときには、その国にある日本大使館や領事館にも郵送で提出することもできると、外務省のHPに下記のように記載されていることを知っておくことです。 https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/todoke/koseki/index.html (このサイトからは、いろいろな届け出用紙のダウンロードもできます。) --------------------------------- 出生届 3 届出方法  在外公館窓口へ直接届け出ます(在外公館又は本邦の市区町村役場へ郵送することも可能)。 --------------------------------- しかしながら、郵送で提出する場合には、よく注意しなければならないことがあります。出生届には、氏名の書き方(使用できる漢字など)、出生日の書き方(西暦ではない)、などなど、役所の中や日本の法律で決められた細かい規定があり、もしも修正しなければならなくなった時、送り帰されてまた提出のし直しになるなど、思わぬ日数がかかってしまうことになります。きちんと規定に沿った記載をされていない用紙は役所で受け付けることができないそうです(B領事館の説明)*。そのようなことを防ぐために、在外公館ではなるべく直接出向いての届出を勧めているようです。 *ドイツの別の都市の日本の領事館(A領事館)では、よほどの書類の不備(出生証明書が同封されていないなど)がない限り、郵便がA領事館に最初に届いた日を受領日としているそうです。書類の不備があって3か月までにはまだかなり時間があるという場合には、一応受理を保留して書類の提出を待つこともあるそうですが、基本的には最初の提出の到着時点を受理日とし、その後なるべく3か月以内までに、書類の提出や訂正をしてもらうそうです。(郵送する前にメールで必要書類のPDFを送って確認してもらっておけばこのような面倒を防げます。)また、日本の戸籍のある役所に直接郵送することはなるべくならお勧めしない、とも言われました。外国の出生証明書を扱い慣れていない役所が多いので「できるだけ滞在国の領事部に提出してほしい」という対応をする日本の役所もあるということです。 しかし遠距離や体調の具合の理由などでどうしても郵送にしたい場合、とにかく早めに在外公館に相談の電話をかけておくことです。領事館によっては、郵送での提出は受け付けておらず、戸籍のある日本の役所に送ってくれるように言われるとこともあるようです(B領事館 2020年4月当時)。(*上記のA領事館対応の記述とは反対ですが、ドイツの別のB領事館ではこのように指導されました。領事館によって対応がかなり違うということのようです。ちなみに、A領事館では「もし、あなたの管轄のB領事館で郵送では受け付けないというのなら、その旨を一筆添えてこちらのA領事館に送っていただければ受け付けます。」とも言われました。) そして、できれば領事館や日本の役所とのやり取りを、メールやFAXのような記録の残るものにして、3か月以内に、在外公館や日本の役所とのコンタクトを取ったことをしっかりと残しておくことをお勧めします。そして郵便は必ず追跡サービス付きで郵送することが大切です。 この度の新型コロナウィルスに伴う規制で、交通事情や郵便事情が大きく影響を受けています。上記の戸籍法では、「天災その他第一項に規定する者の責めに帰することができない事由によつて同項の期間内に届出をすることができないとき」という記述がありますが、もし、電車が動かなかった、郵便が届かなかった、などの理由の場合は自分で記録して証明しなければなりません。 現在、外出制限のある国が多数で、その中には、外出中には証明書が必要で、それに違反すると罰金を科されている国もあるようです。それでも、出生届の提出をしに行くことやそのために郵便局に行くことは、大切なお役所への出頭行動とされて、そのカテゴリーの証明書も用意されていると思います。日本の領事館も開館時間に変化はあるものの、各種の業務が遂行されています。そのような場合には「3か月以内の提出はできなかった」という理由としては受け付けてもらえません。仮に、外出の証明書が、街中の警察官に受け入れてもらえなかった場合などは、その様子を自分で仔細に記録しておく必要があります。電車が動かなかったなどの理由も、その時のニュース報道などを自分で記録しておかなければ証明となりません。 それほど、この3か月以内の出生届と日本国籍留保の届出は厳格に運用されており、一日でも過ぎてしまえば受理されないことになります。その後の、未成年のうちの国籍再取得も、大変厳しい親の面接や日本の居住条件があり、海外に住んだままでは再取得はできません。 人の移動の自由が制限され、郵便事情も悪化している今、これまでにも増して海外での出生届には注意を払い早めに行動する必要があります。 1.国籍法第12条の、「国外での出生届・国籍留保届は3か月以内」というのを周知しておくこと。 2.子供が生まれるとわかったら、在留届を出している管轄の在外公館の、出生届についての情報を前もって調べておくこと。https://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/zaigai/list/ 3.生まれたら、なるべく早く管轄の在外公館に電話して、最善の方法を訪ねること。管轄の領事館で「郵送は受け付けない」というようなことを言われたら、同じ国内の別の領事館にも対応を確かめてみる。 4.直接出向いて提出するにしろ、郵送で提出するにしろ、3か月以内に在外公館、または日本の戸籍のある役所に「出生届をする意思がある」ことを連絡して記録を残しておくこと。(提出は必ず3か月以内と決まっていて例外はほとんど認められませんが、もし「天災その他第一項に規定する者の責めに帰することができない事由」が起こった時のための確かな証拠となります。) もし、皆様の周りの方で、日本人の子供さんが生まれ、日本国籍を取得するつもりの方がいたら、どうかこのことをお知らせしてください。 さらに、A領事館の方から「郵送の場合でも日本の戸籍のある役所に直接郵送することはお勧めしない」という点を特に強調されました。理由は、 Ⅰ.外国の出生証明書を扱い慣れていない役所が多いので「なるべく滞在国の領事部に提出してほしい」という対応をする日本の役所もある。国際郵便でそのようなやり取りをすると時間がかかってしまい取り返しのつかないことになる可能性がある。 Ⅱ.もちろんその国の中での郵送のほうが、日本に海外郵便で送るよりもずっと早く確実に届くこと。郵送したことを電話で一言伝えてほしいが、その場合も国内料金であること(日本にわざわざ国際通話をしなくてもいい)。 Ⅲ.領事館に届いた書類は、日本には外交文書ルートで届けるので確実に届くこと。現在、コロナの関係で国際郵便に支障が出ているが、それに関係なく確実なルートであること。 特にⅢ番は、現在のコロナ対応の移動制限や郵便物の遅れが出ることも予想される中、とても重要と思われます。A領事館の方は、「他の領事館で郵送を拒否されても、受け付けてくれる同じ国内で他の領事館を探してでも在外公館のほうが日本に直接郵送するよりも確実です。」といわれました。

ちなみにこの領事館のサイトには、両親の状況に応じたそれぞれの出生届の記入例が仔細に説明されています。


追記:

この報告を書いた後、一週間ほどしてB領事館の副領事という方から電話がかかってきました。B領事館でも郵送での出生届を受け付けることにしたということです。他の国の領事館で郵送での受付をしていないといわれる場合は、上記のような理由で要望を伝えればきっと対応を変えてくれるのではないでしょうか。


///////////////////////////////////////////////////////

閲覧数:490回0件のコメント

Comments


bottom of page