国際結婚を考える会のトルン紀美子さんが、先日放送されたAbema Prime に出演されました。最近ドイツで二重国籍を容認する法改正があったことを受け、特集としてテーマとなっていました。
番組での議論は時間制限もあり、もどかしいものだったと言わざるを得ません。グローバル社会の二重国籍容認については、反対派側の意見として、二重国籍は悪であるから認めるべきではない、といった論調になりがちです。根拠の薄い主張です。それならなぜ世界の76%を超える国々が多重国籍をよしとしているのでしょうか。
また、選挙の時はどうするのかという発言は何を問題として捉えているのか不思議です。番組のパックンの例えのように岸田さんとバイデンさんが一緒に出る選挙などを想定すればわかりやすいです。それぞれの国で別々の選挙に投票するのですから、国益の衝突にはなり得ません。
国際結婚を考える会では、もともとの日本人から日本国籍を奪わないでください、とずっと訴え続けています。一概に誰にも二重国籍は認めないといった偏狭な考え方にしがみつかず、たとえ少数派であっても国民に不利益を与えるような法律は新しく改正していくべきだと考えます。真剣に苦しみ、迷っている人たちがいることを知っていただきたいと思います。
下は、番組を扱ったニュース記事へのリンクです。
以下はトルン紀美子さんの寄稿です。
アベマTVの感想
重国籍容認への法改正というと、日本ではいつも日本に住む外国人の重国籍容認と、スパイが暗躍しやすくなるのではないか、という事実に基づかない感情的な飛躍した議論になってしまうのはとても残念なことです。今回の番組でも、事前の打ち合わせではドイツの法改正や生活の中で感じることについての質問をされる予定で、そのためにいろいろと返事を準備していたのですが、ドイツに関する質問はほとんどなく、すぐに日本の安全保障という方向に行ってしまいました。
国籍法は、現在では多くの国で、自国の利益にあったように少しずつ改正されています。今回、ドイツで重国籍全面容認の法改正が成立し、外国人の重国籍容認の点が大きく取り上げられているため、日本にもそのような改正が必要なのかというテーマ設定になっています。しかし、日本では一足飛びにそのような改正を期待するのは無理だと思います。ドイツでも、これまで少しずつ改正を重ねながら、今回は国の競争力を考えた結果の改正でした。
日本の国籍法は今のままでも、誰にも違法だと指摘される理由のない(生来取得など)合法的な重国籍の人が90万人を超えるとも推測されています。しかしながら、違憲訴訟の裁判で国が指摘しているような、重国籍を規制するべき理由とされる「国の保護権の衝突」や「身元照合の難しさによる重婚」「兵役」などの問題は政府によってこれまで全く認知されていない、とされています。
こんな中で、11条1項*の外国籍を自己の意志で取得した人たちだけが、自動的に日本国籍をはく奪さるという厳しい対応をされています。この人たちは、日本で生まれ育ち、日本の文化を理解する日本人としてのアイデンティティーを強く持っている人たちです。海外での日本のプレゼンスのために即戦力になる人たちです。この人たちを現在の国籍法が、みすみす排除し、日本とのつながりが持ちにくくなる立場に追い込んでいるのは、本当にもったいないことです。
私たちの切実な願いは、まずは日本人である人、日本国籍を維持したいと思っている人たちから国籍を奪わないで欲しいということです。
また番組の中で、重国籍を認めれば国家の安全が脅かされる、という意見がありました。本来、スパイ行為を行おうとする人が、かなり時間がかかり厳しい日本への帰化制度を通過してからスパイ活動をしようとするのが現実的かという大きな疑問もあります。
番組に出演していた参議院議員の方は、重国籍を認める法改正をするならば、スパイ防止法を作ることが必要だというようなことを言っておられました。しかしすでに国籍法の中に、日本の政府に対してテロ行為を企てたりそのような団体に加入したことが分かればその人には国籍を与えないという条項もあります。*
今回のドイツの改正でも、以前にあった漠然とした国家に対する反逆行為というような表現から、もっと具体的にして、ドイツの基本法(人権尊重、男女平等、言論の自由など)の理念、反ユダヤ主義やその他の人種差別をする言動がある人にはドイツ国籍を与えなことが明文化されています。
出入国管理制度や厳しい帰化条件を全く考慮に入れない感情的な想像による危機感を理由に、まずは日本人の窮状を変えてほしいという訴えも拒絶してしまう議論には、どうしても論点のずれを感じてしまいます。
番組の中で、パトリック・ハーランさんが、スパイの発生リスクよりも、日本の利益のほうがずっと大きいことを考えたほうがいいとおっしゃっていたことが印象深かったです。
私が番組中なかなか発言できない中で考えていたことは、以上のようなことでした。
* 日本国籍法
(帰化) 第五条 6項 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て、若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入したことがないこと
(国籍の喪失)第十一条 1項 日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。
重国籍と言うアンチが多いトピックを取り上げる番組に出演するには勇気がいる事です。リモート参加なので会話に入って行くのも大変だったことでしょう。トルンさん、お疲れ様でした。ありがとうございました。
Youtubeリンクです。https://www.youtube.com/watch?v=dhdrhjan1N0