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執筆者の写真トルン紀美子

バイリンガル教育

更新日:2022年12月18日

 国際家族の中で育つ子供たちの教育で、言語習得はいつもひときわ関心の高いテーマです。当会でも以前から幾度となく情報交換がなされてきました。幼い頃から二か国語以上で会話することができる子供の柔軟な能力とは別に、思春期以降の自我に目覚め抽象的思考能力が大きく発達する頃に、自己表現法としての第一言語を確立させてあげることが最も大切だ、という認識が当会でもこれまで共有されてきました。それぞれの子供の素質による部分も大きいですが、少なくとも一つの言語で、高度な思考や学術的な文章を読み解く力を構築できるよう、学校や環境選びに親が気を付けてあげることはとても重要であるといわれています。


 また、日本の学校教育では、試験様式の多くが暗記で回答できるものであり、授業内容も往々にして自分の意見を発言させることや生徒同士で議論させること、それが成績として評価されることが少ないように感じます。そして校則なども意味もなく厳しいものがあり、規則に素直に従う子供を作り出すことが目的のように思えることもあります。それとは逆に、特に欧米の学校教育では、自分の意見を述べること、人と議論できることを重視し、試験も高学年になると数時間かけた論文形式のものが多くなります。そのようにして教科に関係なく母国語での思考能力と表現能力を繰り返し磨き上げていく教育方法と比べると、はたして日本の学校での日本語能力の訓練方法は適切なのかと、少し残念に思う部分もあります。グローバルな世界に通じる日本人を作るには、小学校から英語教育を始めることではなく、まずは母国語である日本語での思考・表現能力をしっかりと培うような教育方法に変えていくべきなのではないかと強く感じます。


 このテーマは「国際結婚を考える会」のこれまでの会報誌の中にも繰り返し記事となって掲載されてきており、その記録は体験談の宝庫です。下記に一つの記事をご紹介し、また会員の方にはこのテーマの記事を、まずは2008年以降の過去の会報誌からリストとしてまとめたので、ログインして「会報誌(会員限定版)」から閲覧いただけます。今後も会報誌のバックナンバーの整理ができ次第、リストの記事を追加してお知らせいたします。


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子供の言語教育について

(2018年10・11月 第380号 特集「子育て世代へのメッセージ」より)

リード真澄 (東日本)

去る 7 月 14 日、肥後細川庭園で東日本定例会でお話ししたことの中から、特に子育て中のお母さん方が関心を持っておられる「子供の言語教育」についてまとめてみました。


 私にとって子育ては昔のことになってしまいましたが、長年日本語教育に携わって来たことや、現在大学院で第二言語習得の勉強をしていることもあり、子供の言語については今でも大変関心があります。私自身は妊娠中の定例会で子供の言語教育についてのお話を聞いていたことが幸いし、言語教育に関する良きアドバイスを基礎に、親としてすべきことを実行することができました。親として避けるべきことは、子供に中途半端な言語習得をさせてしまうこと、つまり日本語でも、パートナーの言語でも中等教育(または高等教育)が受けられないようなレベルに留めてしまうことです。

 この「避けるべき」レベルは、比較的容易に習得可能な Basic Interpersonal Communication Skill (BICS:基本的なコミュニケーション能力)"と呼ばれていますが、これだけでは抽象思考、高レベルで批判的な思考をすることが困難です。幼少時から小学校低学年の間に 2 つの国を行き来したり、日本に住み、両親とも日本人なのにインターナショナルスクールに入れられたりすると、子供の言語が 2 つともBICSのレベルに留まってしまう危険が否めないのです。大切なのは、親として子供の言語の少なくともどちらか一方を"Cognitive Academic Langauge Proficiency (CALP:教育言語能力) "にしてあげることです。このCALPは大抵学校教育において習得していく言語と一致します。特に小学校の6年間、理想的には中学3年ごろまで、一つの言語を中心にして教育が受けられるようCALPのサボートをして欲しいと思います。

 一つの言語をしっかり習得すれば、つまり、一つの言語を確実にCALPのレベルまで習得できれば、2つ目の言語も本人の興味や努力次第で高いレベル(CALP)まで学ぶことが可能です。しかし、子供をバイリンガルにすることに意識を傾け過ぎると、子供の言語は両言語ともBICS止まりになり、バイリンガルどころか高等教育を受けることも困難になってしまう危険があるのです。私は、この危険を避けるのは親の責任ではないかと考えています。よく「両言語とも喋れていいわね」と言った賞賛を耳にしますが、BICSレべルで 2 つの言語を一見流暢に「話す」ことは決して言語習得の最終目標ではないのです。肝心なのは、親として、子供が人生でやりたいことが出来る言語のレベルを身につけられるようサボートをする、というところまで考えることです。

 また「バイリンガル」という言葉には様々な定義があります。 上記の両言語 BICS止まりは決してバイリンガルではなく、「セミリンガル(ダブル・リミテッド)」と呼ばれています。インターに通う日本人児童や、小学校で授業について行けず苦労している海外からの移住者の子供たちを想像すれば分かると思います。「二言語が話せて羨ましい」というコメントは、二言語ともCALPレベルでほぼ完璧に操れる「均衡バイリンガル」を思い描いて発せられるのでしょうが、均衡バイリンガルは圧倒的に数少なく、容易には達成できません。   皆さんの中には幼少期に 2 つの言語を扱う必要がなかった方が多いことでしょう。自分が体験しなかったことだけに、日々2 つ(またはそれ以上)の言語とともに生きて行かなければならないお子さんについては、この大切な言語習得のことを意識して頂きたいと心から思います。

 子供が最終的にバイリンガルになるかどうかは、その子供によります。親として子供が2 つの言語を習得するためのサボートはすべきだと思いますが、出来ることは限られています。どうしてもバイリンガルにしたいと親が思っていれば、それが子供にとってストレスになることもあるでしよう(反対に、親が二人とも 3 ヶ国語話すのに、自分は 1 つしか「もらえなかった」と嘆く若いハーフの青年に会ったこともあります。)。言語教育は子育ての一部に過ぎません。また、子育て全般と同様、親が一人で悪戦苦闘しても効果がないことも多いです。子供が幼いうちは、大らかに、言葉の楽しさのようなものを一緒に味わうのも一つのアイデアでしよう(私の場合は歌と読み聞かせでした)。学校に行くようになったら、子供の興味・関心を大切にしてあげること、少なくとも子供の夢を潰さないようにサポー卜してあげることが、子供にとっての幸せなのではと思います。


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2018年 10・11月 第380号 特集「子育て世代へのメッセージ」

2016年  4・5月 第365号 我が家のバイリンガル考察

2014年  8・9月 第355号 子供の教育と国籍

  2・3月 第352号 子供の言語について

2013年 10・11月 第350号 バイリンガルとは?を考える

2011年   3月 第332号 特集「継承語について」

2009年  10月 第319号 家庭の言語と文化

8月 第317号 言葉と学校―私の後悔

2008年   9月 第308号 バイリンガルとはアイデンティティ

3月 第303号 複数の言語と文化の交差点 その2

2月 第302号 複数の言語と文化の交差点


 さらに、現在または今後、海外で日本語を継承語として伝えていきたいと考えておられる方たちにとてもためになるサイトの記事をご紹介いたします。


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