昨年暮れに、国籍剥奪条項違憲訴訟の判決に向けて、議員会館にて国会議員向けに弁護団の説明会を開催することが決まりました。「国際結婚を考える会」は同説明会の共催者となり、お世話になっている紹介議員の方々を通じて会場の手配や案内書配布などのお手伝いをさせて頂き、説明会は報道関係の方も参加され、1月19日に行われました。請願係としてこれまで活動して来たことが、こういった場面でも活かされ、少しでもお役に立てたことを嬉しく思っております。
説明会では弁護団の仲弁護士、近藤弁護士が、以下についてご説明なさいました。
①国籍法11条1項とは:日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。
②国籍剥奪条項違憲訴訟とは http://yumejitsu.net/
③国籍法11条1項が早期に廃止されるべき理由(1): 国民の活力を削ぎ、海外での日本のプレゼンスを低下させている。(ここで原告の方々を含む当事者の声が紹介されました。私も5分ほどお話しさせて頂きました)同条項が日本(国家及び社会)にとって大きな不利益をもたらす不合理な規定である。
④世界の趨勢として、外国籍を取得しても元国籍を失わない国が増加しつつあり、現在世界の76%になっていること
⑤国籍法11条1項が早期に廃止されるべき理由(2): 違憲であることの説明(憲法13条、22条1項、14条に違反)
当事者としてリード真澄がお話させて頂いた内容は以下の通りです。
①米国籍を取得した理由:生活基盤を持つ国にビザで居住するというのは非常に不安定な状態であること(日本に長期帰国をすると永住ビザを維持できないこと)
②永住ビザで長年にわたり米国に在住中の日本人が直面した問題
③海外に出ることにより強まる日本人としての意識:海外で日本のために貢献している・貢献したいと感じている日本人が数多くいること
④国籍法11条1項がコロナ禍で国際家族の現地国と日本の行き来をますます困難にしてしまっていること
大変残念なことに、1月21日の東京地裁の判決で、原告の主張は全面的に棄却・却下されました。22日に行われた弁護団の報告会から、自分の理解の範囲で以下、判決に関して書かせて頂きました。
東京地裁の判決は、
①現地の国籍(外国籍)を取得しないと仕事の上で非常に不都合を強いられているが、日本国籍を喪失するため現地の国籍を取得できない、日本国籍を喪失させないで欲しいと言う原告の訴えに対し、「まだ外国籍を申請していない。日本国籍を失う不安はない」と、原告の事情や弁護団の議論を完全無視し、原告の主張を「却下(=門前払い)」しました。これは、現在、海外に30年、40年という長い間居住していても、日本国籍を失いたくないから現地の国籍を取得しない方達に当てはまります。
②外国籍を取得して日本国籍を自動喪失した(剥奪された)原告に対し、「日本国籍に関する権利は、憲法上保証されるものではない。日本国籍の剥奪は人権侵害ではない(!!)。国籍法11条1項は違憲ではない」として、原告の訴えを「棄却」しました。これは私のようにすでに外国籍を取得し、日本国籍を自動喪失した元日本人に当てはまります。
複数国籍を持つことにより生じる弊害は事例がありません。国も全く把握しておらず、原告側の事例提示の要求にも答えることはできませんでした。それなのに、「何としてでも複数国籍の発生を防止しなければ。将来何らかの弊害が生じるといけない」ということだそうです。複数国籍を持つ日本人が100万人近く存在するのに、なぜこういう議論を前面に押し出してくるのか全く理解できません。このことも弁護団は何度も説明していたのに、子供でも分かるような説明が理解されていなかったとは考え難いです。
判決は国の主張を全面的に受け入れ、3年にわたり原告が訴えてきた国籍剥奪による苦難、弁護団の絶え間ない努力と多大な時間・エネルギーの結集を完全に無視したものでした。判決が言い渡された瞬間、裁判官とはどんなに不合理な主張でも国の主張なら全面的に支持する存在なのだろうか、という思いが頭をよぎりました。
今後、国際結婚を考える会として、そして個人として、今後どのように弁護団と原告の方々をサポートできるか、11条1項の改正につなげられるか、色々考え始めました。
①世論を変えよう!
弁護団の皆さんが説明していたポイントの一つは、海外と無関係で国籍法についての知識や関心を持たない、一般の日本人の皆さん(世論)の説得です。ツイッターなどによると、投稿者の8割〜9割が、複数国籍に関してマイナスのイメージを持っていたり、かなり誤解しているとことが分かります。複数国籍を認めること=外国人に日本国籍を与えることと考えている人が多く、そんなことをしたら日本が外国人に乗っ取られるではないか!というツイッターもあったそうですが、日本に帰化しようとしている外国人・外国籍の人はこの訴訟に無関係なのです。当てはまるのは、元々日本国籍を持っていて、日本国籍を奪われた方々です。「国際結婚を考える会」として「国籍問題」と無関係の日本の一般国民の方々に、このマイナスのイメージと誤解を解消する手段を考え、実施して行きたいと思います。
②数字で示そう!
米国に30年近く住んでいた私は、日本語教師のネットワークに数百人の知り合いがいます。また、「国際結婚を考える会」のメンバーは現在60名ほどになっています。皆さんにもそれぞれ海外在住法人及び元日本人のお知り合いがおられると思いますが、できる限り多くの方にご協力いただき、アンケート調査を実施したいと思っています。これは昨年から温めてきたアイデアです。武田里子先生や弁護団の皆様により実施された調査は、外国籍取得理由や取得しない理由などについて詳細に調べたものでしたが、簡潔な調査紙によりどれほどの海外邦人が外国籍を取得しているか、または日本国籍を失うという理由で取得していないのかを調べ、説得力のある数字で国籍法11条1項の弊害を示せたらと思っております。これから、調査紙の内容を検討し、完成次第皆様のご協力をお願いしたいと思います。
最後に一つだけ付け加えたいことがあります。この三年間、「国際結婚を考える会」の請願活動のお手伝いをさせて頂いて参りましたが、今回NHKなどのインタビューを受け、実際に自分の発言が報道されてみて、いかに自分の知識が希薄なものであったか実感致しました。前述の、一般国民の方の誤解や「二重国籍」に対するマイナスのイメージを助長させた原因を作ってしまいました。「日本に二重国籍を認めてほしいですか?」という問いに「二重国籍を認めて欲しい」という言葉で返答してしまったのです。この質問が私たちの意に沿わないものであり、質問を修正するというところまで考えつかなかったことを非常に後悔しております。と同時に、今後、私たちが主張しているのは「二重国籍」ではなく、「日本国籍の剥奪をやめて欲しいこと」なのだと、しっかり肝に銘じようと思っております。更に、約1年前に始めた「国籍法勉強会」を継続し、「国際結婚を考える会」の皆様を始め、多くの方のご理解を頂ける様、努力して行きたいと思っております。(リード真澄)
これから私たちにできることを色々考えていきたいと思います。今回の報道や判決を通じて改めて学んだことが色々ありました。
リードさんの鋭いご指摘にはっとしました。そうです、問題点は「二重国籍が欲しい」ではなくて「日本国籍を奪わないで欲しい」なのですよね。国内に住む人々にこの点をはっきりとアピールする必要があると感じました。