日本国籍を持っている人が外国籍を自分の意志で申請して取得した時には、国籍法第11条1項の「日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。」という規定により、法律上は外国籍を取得した時点で、自動的に日本国籍を喪失します。しかし、外国籍を取得したことを自分で日本の役所の戸籍係に知らせなければ、日本側ではその事実を知ることができないので、戸籍の記録は残ったままになります。
戸籍法第103条には、国籍喪失の届出は、その事実を知った日から1ヶ月以内(届出人が外国にいるときは3ヶ月以内)に届けなければならないとされていますが、「戸籍法は日本国内に居住する内外国人、及び日本国外に居住する日本人に適用される」とされている法律ですので、日本の法務省が「外国籍を取得した外国に住む外国人」と見做す当事者には、外国にいるあいだは提出の義務はない、という解釈になるそうです。またその当事者の親族等にもその義務があるとなっていますが、この義務違反に過料を科すという運用はほとんどなされていないといわれていますし、外国籍を取得した人の中でこの届を出している人は1割程度ではないかと推測されています。
2018年3月から、まさにこの条項について国籍はく奪条項違憲訴訟という裁判が東京地裁で行われています*。これは海外に長く住んでいて仕事上その国の国籍が必要になったため、この国籍法11条1項の国籍自動喪失の規定を知らずに外国籍を申請してしまった人や、これから生活のためにどうしても外国籍を取得する必要があるが、日本国籍を失うこともしたくないという8人の方たちが原告となって、この条項が、憲法の国籍離脱の自由を保障する第22条2項、自己決定権と幸福追求権を保証する第13条、また、出生によるなどの法律上で認められている複数国籍者には国籍選択の機会を認めているのに11条1項の該当者には有無を言わさず日本国籍をはく奪するということが、憲法第14条の法の下の平等に反している、という訴えを起こしているものです。
(*2021年1月21日に残念ながら敗訴の判決が出ましたが、原告と弁護団の方々は、更に高裁、最高裁までの判断を求めていくとのことです。)
出生の時に父母からそれぞれの違った国籍を受け継いだり、結婚すると配偶者に自動的にその国籍を与える国籍法を持つ国の人と結婚するなど、個人の意思にかかわらず複数国籍を持つ状態になった人には、日本の国籍法はいったん複数国籍状態を認め、その代わりにあとで国籍選択をすることを義務付けています。しかし選択義務とは言っても国籍選択届を役所に提出すれば、外国籍のほうは自分で手続きを取らなければ何も変わることはないので、複数国籍の状態は合法的に続くことになります。このことは国籍選択制度についての記事で詳しくご説明しています。
しかし、国籍法11条1項に該当する、自分の意志で外国籍を取得した人の場合は、日本の法律では外国籍を取得したその時点で日本国籍を失ったと解釈されるので、複数国籍の状態になる時点はありません。日本旅券を持っていても、また戸籍が残っているので日本に帰った時に日本旅券が申請できたとしても、その旅券を使うことは無効になった旅券を使用するという旅券法違反の行為になります。
またこの自動喪失するということが、国籍について役所に届ける際に「喪失届」と「離脱届」と二通りある理由です。「国籍喪失届」は、自身の意志に関わらず法律によって既に失っている国籍の事実について報告のために届けるものなので外国籍取得の期日にさかのぼって日本国籍がなくなったこととされ、「国籍離脱届」は国籍を二つ以上持っている人が、自らの届によって国籍を離脱する意思を持って届け出るもので、役所に受理された時点で日本国籍がなくなります。
このように、出生や婚姻、養子縁組、認知などにより、自分の意志ではなく当然に外国籍(又は日本国籍)を与えられた、国籍法第14条の国籍選択をする義務のある対象者と、第11条1項の自分の意志で外国籍を取得したので日本国籍をその時点で喪失した人とは、法律的に全く立場が違うことを、まず初めに理解しておくことはとても重要です。
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