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海外に住む日本人と複数国籍

更新日:2021年1月23日

2016年10月27日、国際結婚を考える会の会員が、ほか2名の方と共に、日本記者クラブによる「海外に住む日本人と複数国籍」をテーマにした会見に臨みました。 その様子をノーカットで収録した動画をご覧ください。



<海外に住む日本人と複数国籍>


日本国内にずっと住んでいると、国籍というものは空気のようなもので、日常の生活では意識しないものですが、いったん国の外に出るととても重要な意味を持っていて生活に直結してきます。現行の国籍法のままでは日本人として海外で暮らしていくには多くの壁があります。国籍法というのは、それぞれの国で、どういう範囲の人がその国の国民か、というのを決めている法律ですが、国によって主義が違い、血統主義、出生地主義、また血統主義に出生地主義を盛り込んだ、一部出生地主義というのも最近増える傾向にあるようです。

日本は父母両系の血統主義で、『第2条 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。』という国籍法の条項で示されています。これは1985年の国籍法改正から施行されているもので、それ以前は父系主義、父親が日本人の場合だけ子供に日本国籍を継承されるというものでした。この父母両系の血統主義に変わったことで、子供は父親の国籍と母親の国籍を受け継ぐことができるようになったので、出生の時から複数の国籍を持つようになった人がどんどん増え、近年では1年に3万から4万人という単位で増え続け、いま日本の国籍と外国の国籍を併せ持つ人は、70万から80万人いるのではないかと推定されています。

海外に住む日本人にとって今心痛となっている法律の内容は、大きく3つに分けられます。一つは国籍留保制度について、二つ目は国籍選択制度、そして三つめが日本国籍の自動喪失です。

1.国籍留保制度

『第12条 出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは、戸籍法*の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ、その出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う。

*戸籍法 第104条 国籍法第十二条に規定する国籍の留保の意思の表示は、出生の届出をすることができる者が、出生の日から三箇月以内に、日本の国籍を留保する旨を届け出ることによつて、これをしなければならない。』

<海外で生まれ、外国籍も取得している日本人の子供は、3か月以内に出生届と共に、留保届を提出さなければならず、これが一日でも遅いと出生の日にさかのぼって日本国籍を失う。>ということですが、この3か月、というのはほんとに短い期間だと感じます。母親の産後の容態や乳児の健康状態によっては、精神的にも余裕のないことが多い期間で、あっという間に過ぎてしまいます。日本国内であれば近くの役所に提出できますが、海外では管轄は遠くにある在外公館で、1日ではいけないところに住んでいる日本人も多くいます。郵送でも提出できますが郵便事情も日本のように確実に届くかどうかはわかりません。日本国内では提出は14日以内となっていますが、これを過ぎても日本国籍がもらえないというような重大なことになることはなく、場合によって過料を払うことでそのあとでも普通に出生届と日本国籍の取得ができます。これは国内で片方の外国人の親の外国籍を併せ持っていても同じです。海外で生まれたということだけで、この厳しい3か月規定が設けられています

日本人同士の夫婦の子供でも、出生地主義の国で生まれて自動的にその国の国籍も取得していれば、もう日本国籍は取得できなくなります。過料を払えばいいという制度もありません。たとえば、ドイツでは2000年に法改正があり一部出生地主義が採用され、8年以上住んでいる外国人に子供が生まれた場合、子供は自動的にドイツ国籍を取得することになりましたが、日本人同士の夫婦の子供に日本国籍をもらえないことなどないだろうとうっかりしていると、またはドイツの法律改正に疎かったりすると、大変ショックな結果になります。これが例えばフランスのような、そのような夫婦の子供には18歳になってからフランス国籍を自動的に与える、というような国もあるわけで(この場合、出生時は日本国籍のみなので3か月を過ぎても日本国籍を取得できないということにはなりません。)、こういう部分を見ていくと、国籍法というのは、その在住国の国籍法ともとても複雑に絡み合っているもので、どんどんその時代に合わせて国籍法を変えていく世界の先進国の中にあって、日本がこの部分で30年以上変わらない国籍法を運用していることは、大いに歪みが出てきているものということが言えます

せめて、国籍留保の届出の期間を1年にでも延ばしてもらえないものかと思いますが、本当は、もう一世代あとにしてもらうことができれば嬉しいと思います。ドイツ国籍法の国籍継承の例を取れば、ドイツで生まれたドイツ人が海外で子供を持ちドイツ国籍を取得したいと思えば期限なく申請できます。その次の世代(ドイツ国内で生まれていない世代<2世>)の子供<3世>にドイツ国籍を、となった場合は1年以内に申請をする、という規定になっています。そうやって、国籍が際限なく広がっていくことを制限していますが、日本の、海外に移住した1世(日本生まれの日本人)から生まれた次の世代<2世>ですでに3か月以内というのと比べると、いかに日本の申請期間が短いもの、厳しいものかがわかると思います。

また、そのようにして失った日本国籍も、下記の条項で再取得の道が開かれているとは言われていますが、

第17条 第12条の規定により日本の国籍を失つた者で二十歳未満のものは、日本に住所を有するときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。』

実際の再取得には、日本に生活の本拠を有すると判断される居住状態でなければ認められないようで、通常、続けて6か月以上住んでいることという条件が付けられることが多いようです。

ビザ免除のある国同士でも滞在許可なしでは3か月までという国が多く、6か月ビザなしで滞在できるとなるとほんの数か国しかありません。外国籍しか持たない子供を連れて、日本の滞在許可をとったうえでなければ6か月以上日本に住めないことになります。また、日本国籍で外国の滞在許可を持っている日本人の親がその子を連れて日本に6か月以上住むと、元々居住していた外国の滞在許可もなくなってしまうというリスクもありますし、海外に生活の基盤がある人が満たすには大変厳しい条件です。「日本に戻ってきて定住する意思のある人にしか再取得は認めないよ」といっている表れだと思われます。

以上の二つの問題点からは、日本に住んでいる複数国籍を持つ条件で生まれた人と、海外に住む人の間で大きく差が設けられており、海外在住者に特に日本国籍を取得しにくくするようにハードルが高くなっていると感じます。

2.国籍選択制度

『 (国籍の選択)

第14条 外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が二十歳に達する以前であるときは二十二歳に達するまでに、その時が二十歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。 2 日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。

第15条 法務大臣は、外国の国籍を有する日本国民で前条第一項に定める期限内に日本の国籍の選択をしないものに対して、書面により、国籍の選択をすべきことを催告することができる。 2 前項に規定する催告は、これを受けるべき者の所在を知ることができないときその他書面によつてすることができないやむを得ない事情があるときは、催告すべき事項を官報に掲載してすることができる。この場合における催告は、官報に掲載された日の翌日に到達したものとみなす。 3 前二項の規定による催告を受けた者は、催告を受けた日から一月以内に日本の国籍の選択をしなければ、その期間が経過した時に日本の国籍を失う。ただし、その者が天災その他その責めに帰することができない事由によつてその期間内に日本の国籍の選択をすることができない場合において、その選択をすることができるに至つた時から二週間以内にこれをしたときは、この限りでない。

第16条 選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。』

在外日本公館に置いてあるパンフレットでは、日本国籍を選択する場合の方法は二つあって、外国の国籍を放棄するか、日本に「日本の国籍を選択し、外国の国籍を放棄します」という届出を提出するかの二つの方法があると示されています。

問題点は、この「選択」という言葉が非常に誤解を生みやすい、ということです。

「選択」という言葉は、<一方を選んで一方を捨てる>という解釈が一般的だと思いますし、この届出用紙にも(添付資料参照)<日本国籍を選択し、外国籍を放棄します。>と書かれているものに署名捺印をして提出することになっています。それで、どちらかを放棄しなければいけないのだと解釈する人が多いのは至極当然で、ここで強く躊躇してしまう人も多いのが現状です。

でも専門家によって解釈されているところは、選択届は<日本の国に日本国籍を保持していたいという意思表示を宣言すること>(どちらかを選ぶ必要はなく単なる宣言)というふうに理解できるのだそうです。16条で、努力義務であるということで罰則も科されていないので、容認されているも同然だという意見もあります。しかし法律の専門家ではない人がこのように判断するにはかなりの予備知識が必要です。添付の資料のように、在外領事館には<はっきりさせよう あなたの国籍>と題されたパンフレットが置かれています。それで窓口の係官でもよくわかっていない方がいたり、または日本の国籍法は複数国籍を認めていないのでそれを徹底させるべきだという個人的解釈の人もいるため、強制するような発言をする係官もいます。

このようなことから、係官の言われるままに、またパンフレットに従って、不本意ながらも一方の国籍を放棄し、あとでとても嘆いている、という報告は当会にはたくさん来ています。生まれたときから複数の国籍を持ってアイデンティティーを築いてきた子供には、どちらかの国籍を本人の意思に反して国の規定で取り上げられるという感覚があります。22歳までというのは、まだ大学を卒業する以前の人が多く、これからの人生をどこで暮らすことになるかも決まっていない人が多いです。

機能していない条項である*という見解があるのなら、このような知識のある人とない人で対処に差が出てきているので、そのような理不尽な不公平を避けるためにも、この条項を削除する方向で検討していただきたいと思います。

*国会参議院法務委員会(平成15年第156回)の民事局長の答弁で、<催告は今まで出されたこともないし、個人の生活に多大な影響を与えることを考えると、今後も出すことは考えられていない。>とあり、複数国籍を持つものは、選択届を提出していなくても、生涯これを保持していけると解釈されている。


3.日本国籍の自動喪失

『第11条 日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。』

という規定がありますが、海外で長く暮らしていくために、または職種によっては、滞在許可では十分でなく、その国の国籍を取得したほうがいい状況になることが多々ありますが、日本国籍を自動喪失してしまうという規定があるために、多くの人が不便な状況でも断念しています。たとえば、フランスでは永住許可というものがなく、最長の滞在許可の期間が10年なので、フランス人の家族として暮らしている人たちも10年ごとの滞在許可の申請が必要不可欠です。日本で長期の滞在許可や永住権をとっている外国人は、再入国許可証を前もって取得していれば、最長5年までの日本外の滞在が認められますが、ドイツでは半年から1年で、長年苦労して取得した滞在許可が消えてしまいます。先進国には複数の国籍を認める国が増えてきていることから、その国にいるほかの外国人は容易にその国籍を取得しているのに対して、日本人は苦渋の決断を迫られていて、ひいては海外で活躍する日本人の足を引っ張っている要因にもなっていると思います。

EU域内で活躍する日本人ビジネスマンで、例えばイギリスの会社から派遣され長期にフランスなどで勤務しなければならない場合、半年以上、滞在許可のあるイギリスを離れるとその許可期限が切れてしまいます。複数国籍をとれるということが普通の感覚である国々の雇用主にとって、「それじゃあ、イギリス国籍をとれば?」と考えるのはごく自然のことで、そのために日本人ビジネスマンは苦渋の選択を迫られることになります。容易に複数の国籍が取れる他の国から来た同僚と比べると、キャリアのためには確実なハンディとなっています。

それから、これは私が聞いた中でとても残念だと思った例ですが、ドイツに長年住む日本人同士の音楽家の夫婦の娘さんで、ドイツ生まれドイツ育ちだけれども日本国籍のみで育った人がいます。成長につれ日本の武道に興味を持ち、ドイツの空手のナショナルチームに選抜されましたが、ナショナルチームに入るにはドイツ国籍でなければなりませんでした。他国から移住した選手は複数国籍が取れるので何の躊躇もなくドイツ国籍を申請することができるのを見ながら、彼女は泣く泣く日本国籍を放棄することにしました。子供の頃にはよく日本の祖父母のところに行き、日本の武道好きもおじいちゃんから受け継いだもので日本人としての誇りも強い彼女です。それなのに、そんな彼女が日本国籍の喪失を決意しなければならなかったのはご本人にとってもそのご家族にとってもとても辛いことだったそうです。

これらのように、他の先進国の複数国籍容認が緩和されていくほど、<定住したいなら国籍を取得しなさい>という方向に進んでいくので、相対的に現行の日本の国籍法のままでは、海外在住の日本人はますます身動きがとりにくくなっていっています。現行の国籍法は、海外に住むようになった日本人は、だんだんと日本との関係が薄くなるだろうという推定の元に作られているようですが、海外に移住する人は、日本にいたくないからではありません。海外で生活をする機会をたまたま持ったのですが、日本に対する想いは変わらないか、または日本を離れることでますます強くなる人のほうが多いと感じます。また海外の事情と日本を比べることができる点で、より広い視野での判断力のある人も多いと思います。そして日本と他の国々との相互理解を強く願ってもいるし、また、そのために実際に行動していける人材も多いと思います。そのような人たちを切り離そうとするのではなく、どうか日本の発展に取り入れていく方向への法改正を検討していただければと切に願っています。

現行の日本の国籍法を一息にすべての人の複数国籍容認に変えることには無理があると思いますが、各国の国籍法を参考にすれば、今の日本にあったように部分的にでも変化を取り入れていくことは可能です。また、複数国籍を持っていたとしても、日本に住んでいればその日本国籍のみが有効です。日本国内で外国籍の権利を施行することのできないように規定できますし、国際法の整備によりこれまで他の容認国で大きな問題になったこともありません。私たちがまず今一番にお願いしたいのは、現在日本国籍を持っている人たちから、本人の意思に反して国の規定で取り上げることのないように、という部分の改正です。

(2016年10月27日の日本記者クラブの記者会見にて発表した内容に後日加筆しました。)

2016年12月1日

国際結婚を考える会 国籍法改正請願係 トルン紀美子


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